三浦崇典が“本の先にある体験”をさらに進化させる天狼院カフェSHIBUYA
2013年に池袋に東京天狼院をオープンさせて以来、「READING LIFEの提供」をコンセプトとして掲げ、“本の先にある体験”を立体的に感じてもらおうと、バーやカフェ、ギャラリーからシアターまでを併設させた店舗を全国各地にオープンさせた三浦さん。今年に入ってオープンした4店舗の中のひとつ、MIYASHITA PARK内の『天狼院カフェSHIBUYA』では、どういった“体験”ができるのでしょうか。
お客様の要望をスピード感を持って
商品化しサービスとして提供できるか
部活やゼミ、イベントなどを開催することで類を見ないお客様へのアプローチを見せる天狼院書店。店主である三浦さんは、本屋をひとつの触媒として、お客様と一緒に“体験”を創り上げるサービスを提供することを常に考え続けている。天狼院カフェSHIBUYAが生まれたことによって、どういったお客様が訪れると天狼院書店が進化するのかを語っていただきました。
―天狼院書店のコンセプトを聞かせていただいてもいいですか?
「READING LIFEの提供」といって、本だけではなくその先にある体験も一緒に提供する、というのが大きなコンセプトです。この天狼院カフェSHIBUYAでいうと、カメラ(写真)に関することがメインになってくるんですけど、本屋の顔も持ち、カフェの顔も持ち、イベントも数多く開催することになってます。
―今や全国に11店舗を構えられていますが、1店舗目から、そういった複合的な楽しみ方をできる店舗にしようという構想があったのですか?
IPS細胞のように、お客様の要望を吸収することで自在に進化する書店を目指して1店舗目をオープンしたので、コンセプトは一貫して変わっていません。なので、僕らの変容もお客様の要望によって進化していくので、僕らも未来がわからない、という感じですね。だから、この天狼院カフェSHIBUYAはギャラリーにできる設計にしているんです。そして天狼院書店はさらに進化していて、“2020年モデル”と名付けているんですけど、“学ぶ・買う・過ごす”というテーマがもともとあって、今はさらに多くの顔を持つ書店にグレードアップしようと、“つくる・見せる・稼ぐ”というのが加わりました。これはお客様が写真を撮ったりしてつくったものを、シアターで見せたり、あとはちょうど12月から始まった、「天狼院クリエイターズマーケット」という機能で、お客様がつくったものを売ることもできるんです。
―全国各地の各店舗ごとに、いろんなカラーがあって特色が分かれていると思うのですが、この天狼院カフェSHIBUYAを他の店舗と意図的に差別化しようと思った点は何ですか?
やはりカメラ(写真)の部分の拠点になればいいと思ってます。ギャラリーとしての機能もあるので写真展を開催したりとか。もともとカメラに強い拠点が欲しかったんですよね。湘南の店舗でもギャラリーがあったり、撮影会などをやったりしてるんですけど、そこと連携取れる姉妹店を渋谷という大都市に構えたいなと思って。ビジネスのニューフェイスというビジネス書の新刊だけを集めたコーナーも最初はここに設置したんですけど、今は全国の店舗で展開しています。ビジネスのセミナークラスもこの棚から始まります。僕らは店舗をオープンする時は、ベータ版だと考えているんです。お客様が望んでいることを受け入れてソフトを換えられるようにしてある。そういった意味では店舗はハードですよね。だからカメラの要素が大きい店舗ですけど、これからはビジネスの要素も膨らんでくるかもしれないですね。
あと内装としてこだわったのは、カウンター席。テーブルの奥行きが60cmあるんです。僕がノマドで仕事をする時に、MacBookProとiPadのどちらも広げると広さが足りないことが多々あって。だからクリエイターの方にずっと使っていただける設計にしています。朝来てコーヒー飲みながら仕事して、ランチも食べられる。渋谷にはそういった方々も多いと思って、こういう構成にしたというのがあります。
―MIYASHITA PARKは渋谷から原宿への導線状の形態をしているので、若い方の通り道にもなりやすいと思うんです。ここ数年、若い層の本離れという言葉をよく聞きますが、若い方へ向けてどういうアプローチをしたいと考えていますか?
先ほど言いました、天狼院クリエイターズマーケットという、お客さんがつくったものを発表して販売できる場を設けています。これは若いクリエイターにもいろんなチャンスがあればと始めたサービスです。今はワンシートコンテンツという、1枚のA4用紙にクリエイティブを載せてもらって、何円で売れるか、ということをやっていて、これが進化すると、ZINEになって、雑誌になって、本になる。もちろん写真や絵をプリントしてもいいし、動画を撮って、それを観ることができるQRコードを載せてもいい。屋上のスケートボードパークで撮ったメソッドとかの動画のQRコードを載せたりしたら面白いですよね。文化って、出版などの型にはまったものを逸脱したところから生まれると思うんですよね。
―お客様からの要望を受け入れることで進化するという天狼院書店ですが、この天狼院カフェSHIBUYAにはどういったお客様に来て欲しいですか?
僕らのお店って、イベントや催しごとで来るお客様が違うんですよね。だから、どういうお客さんに来ていただきたいというのはないです。来ていただいたお客様に合わせてサービスを提供するので、すごく受け身だと思います。お客様の要望をどれだけスピード感を持って商品化できるかと考えています。僕らって“日本一話しかける書店”ということを掲げて意識してるんですけど、こんな本やサービスがありますよ、とお客様に売り込んでいるのではなくて、逆にお客様が何を求めているかを吸収しようとしてるんです。話しかけることはフィードバック機能なので。だから半年後にはまったく違った本を売ってる可能性もあります。
―本屋とカフェでありながら、本やフードを通してサービスを提供している店舗ですね。
そうなんです。他にも「天狼院トラベル」という旅行業態もやっています。スタッフがお客様と一緒に旅行に行くという。今はなかなか行きづらいのですが、本来であればもっと活発に活動していたと思います。
―このMIYASHITA PARKにはアパレル、フード、雑貨などのショップが並んでいて、その中での唯一の本屋さんが天狼院書店になります。この施設の中での立ち位置や役目を三浦さんはどうお考えになりますか?
変わったことをやれ、と言われているような気がしてて(笑)。MIYASHITA PARKに来るお客様に合わせた商品とサービスを自在にラインナップしますし、他のショップともコラボをしたりと、いろいろとできると思うんですよね。
―1店舗目をオープンさせた池袋を本拠地とされてて、もちろん池袋も変化しているとは思うのですが、この渋谷の激変の様子を見て、思うことなどありますか?
池袋はもともと文化の街と言われていたので、書店をやりやすい環境ではありました。渋谷もいろんな商業施設ができて、その中でもこのMIYASHITA PARKができて面白いことがどんどん膨らむ気がしています。池袋と渋谷ではお客様の層が全然違うんですよね。その違いを受け止めて、どう違ったサービスを提供するか考えています。また全国の各店舗でも、いらっしゃるお客様は異なります。例えば京都の店舗では、お客様として普通に舞妓さんがアイスクリームを食べに来たりもします(笑)。オープンしたばかりの名古屋の店舗は、所得が高くてビジネスをいろいろとやられているお客様が多かったりと。名古屋はイベントの定員が埋まるのが早かったりします。
―この天狼院カフェSHIBUYAで今後やってみたいことやMIYASHITA PARKに期待することはありますか?
MIYASHITA PARKは、公園も含めて、想定以上にお客様が来場されてると思います。写真やVlogの撮影会を公園でやりたかったんですけど、それもできないくらい多くのお客様がいますよね(笑)。施設全体に四方八方にエントランスがあるのもいい。お客様とのサークル活動というのを1月から始めるので、このMIYASHITA PARKを使った活動をやってみたいです。探索してみたり、施設の周りで面白いスポットを回ってみたりとか。そこからヒントを得て起業したり、ファッションやサブカルチャーと絡んで何かやるのも面白そうですよね。MIYASHITA PARKがハードとしたら、天狼院カフェSHIBUYAはソフトとしていろんな試みを入れていきたいんですよね。
2020年も気がつけばあと少し。今年はなかなか会いたい人にも会えなかったけど、大切に想っている人へ感謝の気持ちを込めてギフトを贈ることで、心を届けましょう。天狼院書店カフェSHIBUYAで贈り物を探すのに参考にしたいアイテムを三浦さんが紹介してくれました。
三浦崇典
天狼院書店店主。東京プライズエージェンシー代表取締役。2013年の池袋の東京天狼院を皮切りに、7年間で10店舗+1スタジオを全国各地にオープンさせる。『殺し屋のマーケティング』の著者でもあり、執筆活動の他にもプロカメラマン、雑誌編集長、さらには劇団の主宰も務め、幅広いシーンにおいて、エポックメイキングな活動を行う。
Photograph:Takaki Iwata
Edit&Text:PineBooks inc