金子恵治がファッションへの“気づき”を提供する、L’ECHOPPE
青山に腰を据えて、目の肥えたファッションアディクトたちをもうならせるアイテムセレクトとオリジナルプロダクトの製作を行う『L’ECHOPPE』。そのバイヤー/ディレクターの金子恵治さん。渋谷の地に2店目となるショップを出店したことで生まれる、新たな挑戦について伺いました。
人が作る“場”というものを
大切にして服を発信したい
長いキャリアで培った、太く、多方向に広がるコネクションを駆使し、シーンにサプライズを与えるアイテムを次々と生み出している仕掛け人がL’ECHOPPEの金子恵治さん。多種多様なカルチャーを発信し続ける渋谷という街で、ファッションという文化が担うべき役割や、L’ECHOPPEがどういう形でMIYASHITA PARKという施設と共存していくべきかを語ってくださいました。
―ファッション好き、服好きが集まる青山でオープンしてから5年が経つL’ECHOPPEですが、今回この渋谷のRAYARD MIYASHITA PARK内に2店舗目をオープンさせた経緯を聞かせてください。
青山店の次の店舗は、すごく近場か、すごく遠い場所のどちらかをずっと考えていました。ただここ数年、売上規模が大きくなるにしたがい、青山店だけでは少し手狭に感じるようになってきてしまい、近場でお店が欲しいなと思い始めていたところで、MIYASHITA PARK出店のお話をいただき、まさかのチャンスが訪れた感じでした。再開発で渋谷の街が変化していく過程に僕らも携われたら嬉しいという想いもあり、青山と渋谷の2店舗を合わせて1店舗みたいなお店にしたいという考えも芽生え、出店を決めました。
―内装然り、コンセプト然りで、渋谷店を青山店と意図的に違いを出そうとしたところはありますか?
当然青山店よりも訪れるお客様の数も多いので、比較的誰にでも受け入られやすいお店にする必要があると考えました。ですので、宝探し的な要素のある青山店と対照に、渋谷店ではL‘ECHOPPEが考えるベーシックの世界観を体現するお店作りをしました。内装に関しても青山とは対照的にミニマルな空間に仕上げました。イメージはクリーニング屋さんや倉庫みたいなイメージです。店舗面積が少し狭かったので、極力売り場のスペースを広げたいという思いから、ストックスペースを排除したら今のような形になりました。お客様から見ても在庫数が一目瞭然ですね。
―青山店は、L’ECHOPPEに行こうと思って訪れるお客さんが多いと思うのですが、この渋谷店は回遊されててたまたま入られるお客さんも多いですもんね。
そうですね。ベーシックなものがズラっと並んでいると、驚いたりせず、入りづらさもないと思うんです。でも、語ればたくさん語れるアイテムが用意されているショップになっています。
―公園があることで誰もが入りやすい施設なんですよね、MIYASHITA PARKは。だから青山店と違って、ファッションがそこまで好きではない人も来ると思うんですが、金子さんはどういったお客さんに来て欲しいですか?
逆に服に興味がない人に来て欲しいですね。ここで洋服って楽しいんだ、ということに気づいて欲しい。実際、青山店は行きづらかったけど、渋谷店は気軽に入ることができました、というお客様が多いんですよ。知らずに通りがかりに入ったおじちゃんとかおばちゃんがシャツを手に取って、これいいじゃない、と言って買ってくださって、またリピートして他のアイテムも見に来てくれたり。だからファッションの入り口になって欲しいとも思いますね。
―L’ECHOPPEでは確かな理念を置いてファッションというものを発信してきたと思うのですが、いわゆるファッションの街、原宿や青山ではない渋谷は、いろんなカルチャーが発信される街だと思うんです。その中において、ファッションという文化はどういった役割を担ったり、どうなって欲しいとか、金子さん個人的にはどう思われますか?
僕は、洋服を着ることによって世の中の不便を解決したり、より良い世界になったらいいなと思ってるんです。だからあまりトレンドとか流行とか、誰かが着てるから、みたいなことにはとらわれずに商品を作るようにしています。L‘ECHOPPEのオリジナルのシャツは9サイズあるんです。一般的な3サイズ展開って、様々な体型の人がいる中、結構雑な展開数じゃないですか。既製服であらゆる体型の方にフィットするアイテムがあることを提案したくて9サイズ展開で作りました。ちなみに僕は古着とかで変わったフォルムの服とかが好きで、いろんなバランスの服を着て楽しんでいます。ひと昔前のサイズの定義って今は崩壊してしまっていて、決まりごとよりもフィーリングで得る気持ち良さが大切になってきました。だからサイズバリエーションがあることで、その分楽しみも増えるんじゃないかなと思ったりもしています。でも、こんなサイズ展開があったりするのは実物を手に取ってみないと違いがわからなかったりしますよね。着てみないと新しい着方なんて生まれません。だから新しいファッションが生まれる“場”にしていきたい。そんなお店の在り方も良いのではないでしょうか。実は、同じMIYASHITA PARK内にショップがあるTOKIONのディレクションをしている源馬(大輔)くんから、一緒に何かやろうよ、と言われてL’ECHOPPEとTOKIONのコラボレーションの話も進めているんです。そういったことが生まれるのも、やっぱり同じ施設内に出店していて“場”があるからだと思うんですよね。コラボのテーマも“90年代の渋谷“で。僕的に一番渋谷が熱かった時代を、また渋谷の地で再解釈してものを作るというのが、感慨深くて。
―他のショップにはない、新しい服の着方に接することができる可能性を与えてくれるショップという“場”ですよね。金子さんは東京のご出身ということですが、若い頃から見ていた渋谷が、どんどん変貌を遂げる様子はどう感じられますか?
実はあんまり見てないんです(笑)。働き始めるまでは地元に近い吉祥寺から俯瞰で渋谷を見てた感じで。働き始めてからは渋谷近辺にずっといますけど、大人になったからわかる部分でもあるんですが、街とか企業が意図的に盛り上げようとしている感じはしますよね。キーマンがいないというか。この人がいるからこう変わってる、というのが伝わって来ない。
―109のカリスマ店員とかが渋谷という街の象徴だったりもしましたもんね。
そうですね。そういう人がカルチャーを作っていたのが、今は企業や自治体が作っている感じがしますね。
―その金子さんから見て浅くなってしまった渋谷に生まれたMIYASHITA PARK、そしてその中にあるL’ECHOPPEが担う役目とかってあると思いますか?
MIYASHITA PARKはカルチャーが生まれる渋谷と公園が持つ開放感を融合した施設ですよね。先にオープンしたPARCOも次世代型の商業施設として、ハッキリと方向性を意思表示してきました。人が集まるキッカケはできました。あとはそこに集う人たちが、その場所で何を生み、何を育んでいくのか。我々もただ居座るだけでなく、ひたすら僕らの好きなものを楽しいことを紹介していきます。すごく抽象的ですけど、単純にそうしたことをしていき“ファッションは楽しい“ということにつなげていければいいな思います。L‘ECHOPPEで買い物をした人がかっこ良くなれば、自ずと、渋谷の街に良い変化が現れると思うんです。やっぱり人の色が街を作っていきますからね。
―今後、L’ECHOPPE渋谷店でやってみたいことやMIYASHITA PARKに期待することなどありますか?
L’ECHOPPEは古着があったり新しいものがあったり、スーツがあってもよくて、特定のテイストで揃えようというコンセプトはないんですよ。青山店もオープンしてから5年以上経つんですけど、時代に乗ってゆらゆらと空気を感じながらきた感じがしてて。僕自身は1日先も読めずにフワッと生きてるんで(笑)。だから渋谷の街が変われば、L’ECHOPPEも変わるし、僕も変わる。でも、明日僕が出会う人と何ができるか、というのを考えながら生活しているので、やっぱり人と出会うことでやってみたいことが生まれてくるんですよね。もちろんその出会った人との会話の中に時代の空気感も入ってくるんですけど。だからマイペースでやってることが、新しいことを生まれることにつながるんだと思います。
金子恵治
東京都出身。セレクトショップ、EDIFICEのバイヤーを務めた後に独立し、自身での活動を経て、2015年、青山に、L’ECHOPPEをオープンさせ、バイヤー/ディレクターを総括する、コンセプターを務める。2020年にはL’ECHOPPE渋谷店をRAYARD MIYASHITA PARK内にオープンさせる。
Photograph:Takaki Iwata
Edit&Text:PineBooks inc.