渡辺真史が縁のある地で挑戦する新業態、DAYZ
「BEDWIN&The HeartBrakers」のディレクター・渡辺真史さん。若い頃から“遊び場”として馴れ親しんできた宮下公園が変貌を遂げたMIYASHITA PARK内に、新たな試みであるショップ、『DAYZ』をオープンさせました。DAYZのオープンに至る経緯や想いは、渡辺さんが培ってきたキャリアがどう育んだものなのでしょうか。
常に変化し続ける渋谷で
自分たちが何をできるか
長年見続けたストリートという場所で得たものを活かして、BEDWIN&The HeartBrakersのディレクターを務める渡辺さん。そのストリートの代名詞でもある渋谷という街で自身のショップを構えることになった感慨深さもある中、変わっていくことが当たり前である渋谷で、自分たちが何を楽しんで何をするべきなのかを話してくださいました。
―改めてDAYZというショップのコンセプトを聞かせていただけますか?
細かいところまで含めるといろいろあるんですけど、わかりやすく端的に言うと“東京のストリートファッションやカルチャーを MIYASHITA PARKから世界に向けて発信する”ということですね。東京のコンテンツを“渋谷”から発信していくことに意義があるというか。
―日本のストリートファッションが世界に向けて発信されることの礎となった場所といえば原宿のほうが連想しやすいと思うんですが、そういった名だたる原宿のイメージが強いブランドをあえて渋谷から発信しようと思ったのはなぜでしょうか?
自分が若い頃の原宿と今の原宿はまた変わっているというのもあるし、今はファッションが好きな人だけじゃないところにも届けたい、という想いもあって。だからこのMIYASHITA PARK、そして渋谷という街はファッションが好きな人も来るし、そうでない人もたくさん訪れる場所。そこで東京を代表するブランドやカルチャーを見せたかったんですよね。最初、BEDWIN&The HeartBrakers(以下、BEDWIN)での出店を持ちかけられたんですけど、それではなく東京で一緒にがんばってる仲間たちを東京で応援したい、という考えもあって、こういったセレクトショップという形態を選びました。
―店内に入ると、まずスニーカーウォールが目に飛び込んできますが、スニーカーを主軸にしようと思った経緯は何だったのでしょう?
もともとスニーカーが好きで、スニーカーショップをやりたいという想いはあったんですけど、DAYZとして軸にしているのは東京のローカルブランドなんです。そのブランドのウエアの足元には常にスニーカーがある、というのは自分が20代の時から見ているスタイルだったので、ヘッド to トゥでスタイルとして完成させたいと考えた時にスニーカーもセレクトするのは重要だと思ったんですよね。
―BEDWIN&The HeartBrakersの旗艦店、『The HeartBrakers』とショップという意味合いで大きく違いを出そうと意図されていることはありますか?
The HeartBrakersはBEDWINというブランドを目掛けて目的を持ってお客さんが来てくださるんですが、このDAYZは回遊客のほうが多いと思います。だから、施設内を歩き回って何気なく入ったお客さんに、自分が本物だと思うブランドで目を留まらせたい、というか。そういう機会をつくれるショップにしたかったんです。The HeartBrakersはBEDWINの世界観をお客さんに伝えようとするんですけど、DAYZはファッションの入り口というような場所になればいいな、と。だから接客の仕方に関しても、親切にいろいろと教えてあげられるように心掛けています。
―東京のストリートファッションを渋谷から世界に発信する、という意図に沿って、オープン記念でも名だたるブランドとのコラボレーションアイテムがリリースされました。今後も継続していかれるのでしょうか?
“東京”というキーワードはもちろん大切にしています。東京のローカルブランド、渋谷や原宿で活動している人たちを応援していきたい。だから今後はいろんな東京のブランドを紹介していきたいですね。30〜40年と長くやっているブランドから、今勢いのある若いブランドまで。特に若いブランドは支えてあげて、自分もブランドをわりと長くやっているので、答えてあげられることは相談にも乗ってあげたいし。
―そういった若いブランドの方が、「いつかは服をDAYZに置いてもらえたらな」と憧れのショップになったら素敵ですよね。
そうなったら素晴らしいですよね。そしてお客さんにとっても、東京のコンテンツ、渋谷のコンテンツを見ることができるショップになれたらいいなとも思っています。あとは日本に海外の友人が来た時とかに、「日本のブランドを一堂に見れるとこに行きたいんだけど、どこにいったらいい?」とよく聞かれるんです。ブランド数だけで言うと百貨店とかファッションビルはあるんですけど、東京のブランドだけが集まっているところはなかなかないので、そういった場所にもしたい。ホテルもあるし、駅も近くて利便性も高い施設なので、海外の方にも足を運んでもらいやすいですよね。
―渡辺さんが慣れ親しんだ渋谷という街がどんどん姿を変えていく光景を見てて、思うことなどありますか?
周りの声を聞いてると良いとか悪いとかあるんですけど、自分としては変わることが東京らしいというか。特に渋谷はずっと変わってて、これまでは小さい一角が変わってたのが、ここ数年で大きい建物が変化してきたというだけで。歳を取れば取るほど古い建物がなくなることに対して哀愁が出てきたりもするんですけど、渋谷という街は常に変化する街だと思うんで。その変化に対して、自分たちらしく何ができるか、ということをずっと考えていますね。
―新しいたくさんの商業施設が立ち並ぶ中で、このMIYASHITA PARKの魅力や役目ってどういうところだと思いますか?
まず、名前の通り宮下公園と連携していて、公園という場所や名前を引き継いで、変化する中にも渋谷らしさや宮下公園らしさをちゃんと残しているのが他にはないところだと思います。あとは渋谷と原宿をつなぐ導線になっていて、単なるモールではなく通るだけで外の空気を感じられる設計にもなっている。宿泊施設からバーやアートギャラリーまであって、さまざまなカルチャーが混在する渋谷という街をひとつの施設に凝縮して表現しているようにも思えるんですよね。
―いわゆる商業施設というよりも、ちゃんと渋谷の街の一角になっている感じがするというか。
そうですね。渋谷横丁が1階にあったりとか、オシャレな感じだけを押し出すんじゃなくて、きちんとリアリティもあって。それがわかりやすく詰め込まれているから、いろんな人が来やすい場所だと思います。
―若い人たちが何の目的もなくフラッと寄っている感じもありますよね。
それがそもそも渋谷なんですよね。自分が若い頃にこの辺に遊びに来ていた時も何か目的があるということではなくって、お金もないし、友達とただ一緒にいたかっただけ、というか。何かを見つけたり、新しい友達に出会ったりしたくて来てた渋谷、そして宮下公園が、形が変わった今でもそういった場所になっているというのは純粋にいいですよね。
―10代の時には友達と待ち合わせしたり、大学生とかになったら買い物しに来て、働き始めたら飲みに来たり。家族ができたらみんなで公園に散歩に来たり…と広い年齢層で楽しめますよね。
他の施設にはない楽しみ方が、年相応でありますよね。今はコロナで地方や海外から人が訪れづらい中、息苦しさもあったところからちょっとゆとりのある空間ができた感じもします。そんな中からスタートしたMIYASHITA PARKが楽しみでもありますね。
―今若い人たちで、この施設とともに大人になった、という人が将来出てくるかもしれませんよね。
そうですね。渋谷は変わる街だから変化はしてるかもしれないけど、どういう形でもいろんな人が楽しめる場所であり続けてほしいですよね。自分が10代の頃から来てた宮下公園に、こうやってお店を構えることができたのは、この街にずっといるんだな、と実感したりもするんです。
―DAYZで今後やってみたいことや発信していきたいことはありますか?
名前が“DAYZ”というのもあって、僕たちの日々を発信していけたらなとか、楽しい日々をつくっていけたらな、と思ってるんです。それによって、誰かの楽しい日々をつくることに繋がればうれしいし。そのために新しいファッションやカルチャーに出会うことができる場所になったらいいですね。
渡辺真史
10代からモデル活動を始め、さまざまなファッションや カルチャーに触れる。武蔵野美術大学に入学し、遊びと旅行を重ねながらアートを学ぶ。大学卒業後、渡英しそこでファッションとして撮られる側から作り手側への興味を持ち、帰国後アパレルブランドの立ち上げに参加。そこでの経験を活かし、大人のストリートを軸とした自身の会社DLX CO.,LTD.を2003年に設立。2020年、MIYASHITA PARKに東京ブランドとスニーカーブランドを中心に構成されたセレクトショップ『DAYZ』をオープン 。
Photograph:Tomohiko Tagawa
Edit&Text:PineBooks inc.