『Silver』編集長・千葉琢也が思う実店舗へ足を運ぶことの意義
“東京発世界基準のファッション、ライフスタイル”を提案するファッションマガジン『Silver』の編集長、千葉琢也さん。どんどん変貌を告げる渋谷という街に生まれたMIYASHITA PARKが街の一角として機能する姿を見て、ショップや施設へ足を運ぶことの意義について語ってくださいました。
“偶然の出会い”
を求めて外へ出る
これまでに数々のファッション・カルチャーマガジンを手掛け、ストリートとして渋谷の街とも長きにわたって付き合ってきた千葉さん。カルチャーが生まれるためには、いろんなところに動き回った時にある“偶然の出会い”が必要だと考える千葉さんはMIYASHITA PARKにもたくさんの“偶然の出会い”があるはずと語った。
―都市開発によってみるみると変貌を遂げる渋谷という街ですが、長年ストリートに関わる媒体を手掛けられてきた千葉さんから見てどう映ってますか?
変わり方にはもちろんコロナの影響もあったと思うんですけど、変わっていくことが必然だったとも思うので、わりとすんなり受け入れられたというか。開発されている最中は駅の中の導線もどんどん変わるし不便に思うこともあったけれど、いざできてしまえば、街ってこうやって変化していくんだな、とポジティブに思えました。きれいになっているところも多いし、まだ開発が進んでいるところも含めて快適になっていくんだろうな、と感じています。
―そういう変化していく渋谷という街にオープンしたMIYASHITA PARKですが、この施設の他にない魅力として感じる部分はありますか?
いわゆるファッションビルにとどまってないところがいいですね。もともと渋谷の街の個性は、なんでもあるというか、メジャーカルチャーもあればサブカルチャーもあるし、何かを創り出したり発信したりするのが渋谷だと思います。このMIYASHITA PARKは公園はもちろん、スケートパークがあったり、渋谷横丁なんかもあったりしてカルチャーフルな組み立て方に共感が持てます。アンダーグラウンドから生み出されるカルチャーとはまた違う角度のハイブリッドなカルチャーが芽生える場所というか。こういうスポットが活性化することによって、また別の場所でアンダーグラウンドなカルチャーが生まれそうだな、とも思います。ラグジュアリーブランドのショップも入っていて、そして、ちゃんと若者のほうを向いてて、若者が集まれる場所というのもいいですね。公園にも人が集まってて、都市の公園としての役割もきっちり果たしてるように見えるし。今までなかった、街づくりの新しい形という感じがします。
―これが隣の原宿や恵比寿となると、こういったコンテンツが揃う施設にもなってなかったですよね。
もちろん規模感もあると思うんですけど、渋谷駅からの導線として活きている感じもして。商業施設というよりも、ちゃんと街の一角だし、インフラのひとつにもなっていると思います。今、世の中的にインターネットでの買い物がどんどん増えていく中で、こういった実店舗を訪れる意味って、“偶然何かに出会える機会を与えてくれる”ことだと思うんです。自分が知らなかったことに偶然出会ったりすることはリアルでないと起こり得ないことなはずなんです。ショップや施設を訪れることは自分では想定できない出会いをもたらしてくれると思うんですよね。そう考えるとこのMIYASHITA PARKは渋谷から原宿へ向かう導線上にあるので、いろんな偶然に出会いやすい場所という気がします。
―公園を目当てに訪れた人も、そこに着くまでに通るショップなんかにも出会いが待っていたりして。
ネット上で起こることは、自分の行動パターンの中から生み出されるのである程度想定内だし、何かの目的を持って接触しようとするけど、やっぱり外に出ると想定外のことが起こります。だから自分の見聞を広げるためにも僕は外に出ることが好きなんですよね。
原宿だともうちょっとファッションに寄ってるし、恵比寿だと夜の街という感じもあるから、渋谷ならではの文化の幅での出会いは面白いことがたくさん生まれると思います。
―MIYASHITA PARKは、飲食店やアパレルショップの他にも公園、ホテル、ミュージックバー、アートギャラリーなんかもあって多種多様なカルチャーが混ざり合う複合的な施設です。現在、千葉さんが手掛けられる媒体『Silver』もファッションを基軸としながらも、その背景にあるカルチャーやライフスタイルを大切にして創り上げられているように感じます。これから、ライフスタイルの中におけるファッションとはどういう立ち位置になっていくと思われますか?
そもそもファッションが“ライフ”だと思うんですよね。ファッションと洋服の言葉の違いって、極端に言うと洋服は生活必需品的なアンダーウェアでもよくて、カルチャーを含んでいて人をワクワクさせるものがファッションだと僕は考えています。長い歴史があるラグジュアリーブランドの成り立ちも、もともとは“人を楽しくさせたい”とか、“生活を豊かにしたい”とかから始まっているわけなので。今は、洋服の印象が強いブランドもライフスタイル全体をワクワクできるものにすることからスタートしているところばかりです。だからファッションがライフスタイルの一部となってきたというよりも、ファッションは“ライフ”であり、みんなをワクワクさせるものなんです。ルイ・ヴィトンは鞄メーカーから始まって、ルイ・ヴィトン・ファンデーションというあんなに大きな美術館を作ったりしてるし、やっぱりワクワクを生み出すこと自体がファッションなんですよね。だからこれからはブランドの作り手が生活を豊かにするために考えている意図がもっとはっきり浮き出てきて、それを深く知ることができる時代になるかもしれないですね。渋谷は若い人たちに向いてる街だから、自分たちの好きなストリートカルチャーによって成功できるんだ!とか、洋服を作って成功したい!とかのワクワクが渦巻いてると思うんです。それもライフスタイルとファッションの関係だと思うんですよね。
―コロナウイルスの影響もあって、インターネットでのショッピングするという環境はますます拡大していくと思うんですが、そんな中で実店舗を訪れる意義ってどうやって保たれていくと思いますか?
僕は想定できるもの、たとえば生活雑貨とかしかネットで買い物しないんですよね。やっぱり洋服なんかは出会いがあって、実際目で見て触ってしか買わない。どうしても欲しいものは絶対買うし、ちょっとでも気にいらないところがあったら買わないんです。それってやっぱりお店で確かめないとわからないじゃないですか。誰かと一緒に買いに行ったことを覚えてたり、欲しいけど金額的にどうしよう…でもやっぱり欲しい!とか迷ったりして買ったものは長い間大切にするものだと思います。そういうものを何年も大事に着ることこそサスティナブルだと思うんですよね。大切なものに出会う。それに出会うためのかけがえのない瞬間に出会うために外に出かける。そういうことに実店舗に足を運ぶ大きな価値があると思います。
―地理的なことや、中の店舗ラインナップを見ても他にはない施設であるこのMIYASHITA PARKに今後期待することはありますか?
意外と、何かの目的を持たずにフラッと気軽に寄れるこういう場所って少ないなあと思うんです。ここは街としての機能の中にエンターテインメントがちゃんと溶け込んでるので、若い人たちの暇つぶしの場所になってくれたらいいと思います。何気なく寄ってみたらいろんな出会いや気づきに遭遇できる場所だと思うんです。僕は山形で高校時代を過ごしたので、こんな出会いの場所がなかったので羨ましいです。若い人たちが意味もなくたくさん集まる。それがゆくゆくライフスタイルを豊かにするためのカルチャーが生まれるきっかけになっていったら面白いですね。
〈プロフィール〉
千葉琢也
『Silver』編集長。1978年生まれ。ファッションカルチャー誌『Ollie』、『GRIND』、『PERK』の編集長を兼任した後、2018年にTHOUSANDを設立し『Silver』を創刊。現在は『Silver』制作の他、企業のコンサルティング・クリエイティブ・ディレクションも手掛ける。
Photograph:Takaki Iwata
Edit&Text:PineBooks inc.