MIYASHITA PARKに彩りを添えた4組のアーティストインタビュー
公園、商業施設、そしてホテル……。多彩な顔をもつMIYASHITA PARKは、訪れる人をさまざまな形で楽しませてくれます。今回は、そんなMIYASHITA PARKの楽しみ方のひとつ、アートな一面にフィーチャー。“渋谷に縁のあるアーティスト”たちが、渋谷や公園というキーワードからインスパイアした作品とともに、それぞれの思いを語ってくれました。
渋谷のモニュメントを
再解釈して未来につなぐ
アーティスト兼モデルとして多方面で活躍するColliuさんと、MIYASHITA PARKのなかでも渋谷駅からも近いエントランスに展示される彼女の作品『きゅうちゃん』。愛くるしいフォルムとビビッドな配色で見るものを引きつける本作には、Colliuさんのアーティストとしての想いが詰まっていました。
―渋谷にはよく訪れますか?
洋服屋さんに立ち寄ったり、普段からよく来ますね。原宿から渋谷まで歩くことも多いです。だから私にとっては、思い出深い場所というよりも、日常、生活圏内という感じですかね。あと、映画を見るのが趣味なんですけど、渋谷ってたくさん映画館ありますよね。だから映画を見に来る街というイメージも強いかな。ユーロスペースっていう映画館で学生時代にアルバイトもしていました。
―ご自身の作品がMIYASHITA PARKに展示されることについてお気持ちは?
めちゃくちゃ嬉しい!というシンプルな感想です。もともと出身が横浜で、横浜ってすごく自然に街の中にアートが溶け込んでいるんです。その状態が鑑賞者の立場からすごく好きで、アーティストを目指すきっかけにもなったんですけど、自分なりにどうすればずっと人が生活する環境と作品が共存できるのかを考えてきたんです。長年試行錯誤してきたことが、このパブリックアートを通じてひとつの形として残せた気がします。
―渋谷にパブリックアートをつくることで意識されたことは?
制作段階で気にしていたのが、渋谷で一番モニュメンタルなハチ公だったんです。それを無視していきなり違うものは作れないなって。ハチ公のアイデンティティを引き継いだうえで、自分のセンスなどを入れながらモニュメントとして作用するようにシンプルな形や、力強い色などを色々考えながら作ったので、今後も街の中でシンボルとして作用すると信じています。
―作品名は「きゅうちゃん」ですが、その由来は?
一番の理由は宮下公園の宮の字から。でも、実は、ハチ公からインスパイアされた犬のモニュメントでもあるので、数字の8の次の9(きゅう)という意味もあるんです。
(プロフィール)
Colliu
アーティスト兼モデル。 目が特徴的な人型のモチーフを中心にドローイング、絵画、立体作品など、さまざまな手法で独自の世界を発表している。8/8〜9/5にFARO Kagurazaka(162-0828 東京都新宿区袋町5-1 FARO神楽坂1F)にて、民藝などをモチーフにした個展『FOLKS!』を開催中。
Colliu | Solo Exhibition「FOLKS!」 | FARO青山 | FARO神楽坂
もまれることで生まれた
雑多な渋谷という文化
北街区北側の2~3Fエレベーター ホールの天井画『Small Flowers Blooming on the Ground』を手掛けたのは、さまざまな模様による絵画の表現方法を追求する福津 宣人さん。彼が“雑多な街”と表現する渋谷と彼自身の作品には、意外な共通点がありました。
―渋谷にはよく訪れますか?
最近は頻繁に行くわけではないですが、若い頃はすごく馴染みのあった場所。渋谷に対しては“雑多であることが許される街”だったり“若い人の街”というイメージを昔から抱いていました。
―作品展示のオファーをもらった時の感想は?
「最近の作品がしっくり来るだろうな」という予感はありました。一見単調なドットで書いたような絵に見えるんですけど、寄っていくとあの中にひとつも同じ模様ってないんですよ。どれも色のバランスや形が違うんです。エスカレーターで登り始めてからどんどん作品との距離が近づいていくにつれて、表情も変わっていく。それが見た人に面白いと思っていただけるだろうなって。
―“雑多な街”渋谷とご自身の作品との共通点は?
例えば、渋谷の文化って、誰かが壁に落書きして、またその上にさらに別の誰かが上書きしたり、いろんな方向を向いている人たちの中でもまれることで成熟してきたんだと思います。誰かひとりが大きな声を出して生まれたものじゃない。絵具を垂らしながら描いていく僕の作品も同じで、なぜひとつとして同じ模様がないかというと、この手法だとどこかで諦めなきゃいけないところが出てくるから。絵具のねり具合だったり、絵具を入れる順番や量、垂らす高さによって模様が全然変わってしまうんです。筆で描く場合は、描きたい方向にまっすぐ進んでいけるんですけど……。でもその外的要因による諦めみたいなものが、結果、自然なものが持つ個の特性になり得るから、まるごと楽しむようにしています。その点は、渋谷と僕の作品の共通点かもしれませんね。
(プロフィール)
福津宣人
映像クリエイターとして活動した後、画家の領域へと移行し、“総ては模様の様なものである”をテーマに、さまざまなパターンを使った独自の絵画様式を追究。建築家とのコラボレーションを含む着想豊かなアプローチは海外各都市での展覧会でも注目を集める。
多様性に溢れた渋谷を象徴する
新しい待ち合わせスポット
世界各国の有名企業と常に斬新なコラボレーションを果たし、今年創業25年目を迎えるデザインオフィス・Stone Designs。彼らが手掛けたのは、MIYASHITA PARKと明治通りに挟まれた歩道沿いに展示される『Any(エニィ)』。「周りを歩きながら、いろんな角度から眺めて欲しい」と語る彼らが作品に込めた思いとは?
―渋谷に対するイメージを教えてください
多様性、国際都市としての近代性、そしてSF作品のようなテクノロジーです。
―今回の作品を手掛けるにあたりインスパイアされたモノは?
渋谷の街そのものでしょう。この街に息づいている文化のように、驚くほど受け入れやすいのにどこまでも掘り下げられる背景を持つ、ということを表現しようとしました。そして何よりも、渋谷に行き交う、いかなる人種、性別、文化的背景を持つ人をも象徴する作品に仕上げる必要性を感じましたね。
―どこから今回の作品を眺めるのがお気に入りですか?
これについては間違いなく、周りをぐるりと歩くのがおすすめです。そうすることで、どんな人をも象徴するという、リアルなメッセージを受け取ることができます。アートとして命を吹き込むために、自らも足を動かしてみてください!
―作品名『Any(エニィ)』の意味は?
Anybody、Anytime、Anythingのように、多様な人々に誰でもいつでも出会うことができる場所になりますように、という意味を込めました。
―作品を通して伝えたいことは?
世界はひとつにならなければならないということ。そして“多様である”ことは単に“異なる”ことを上回る力を持つということです。男女の垣根を越えることで見えてくる人生の喜びや愛を、土地、肌の色、文化を問わずすべての皆さんと共感できれば、と思っています。
(プロフィール)
Stone Designs
クトゥ・マスエロスとエヴァ・プレゴの二人のデザイナーが1995年スペイン・マドリードに創業したデザイン集団。プロダクトデザインおよびインテリアデザインを得意とする。“一人一人が日常を幸せに過ごせるように”をコンセプトに掲げ、現在では、世界各国でプロジェクトを進行させている。
人のつながりと緑に
あふれるミライのシブヤ
南街区広場や、美竹通りから2階に上がるエスカレーターの壁面を彩るのが、senseさんとKAZさんによるユニットTHE BLUE LOVE(sense + KAZ)の作品。国内外で活躍する彼らがMIYASHITA PARKの顔とも言えるこの場所に描いたのは、ふたりの希望が詰まった渋谷の未来です。
―このプロジェクトの話が来た時の率直な感想は?
渋谷ももともとあった宮下公園も、ずっと過ごしてきたある意味“日常の場所”だったので、この話が来たときは「サイコー!」って感じでした。たくさんの方の目にも触れるというのも嬉しいですよね。
―作品の中に、ずいぶん自然をモチーフにしたものが多いように思いますが?
街と自然をイメージしながら描いていったんです。大都会の中にこういう自然のモチーフを入れられるのって良いなと思ったので。イメージソースは宮下公園や未来の渋谷。僕たちが考える未来というのはすでに出来上がっていて、割と今は人間の問題ばかりがフォーカスされていますが、それよりも自然との共存とか街が拡散しながら人のつながりは強くなっていくみたいな感じが理想だなって考えているんです。だから、そのために必要なテクノロジー的な表現があったあり、木々が生い茂っていたり……、それが拡散していく様をいろんなパートで描いたんです。
―作品のテーマは?
はじめから僕たちの中に共通してあったテーマは“宇宙船渋谷号”。宇宙空間って無限なイメージがあるから、広がりや拡散って感じがするじゃないですか。だからバックグラウンドを地球にするよりも宇宙にしちゃったほうがいいんじゃないかって。
―未来の渋谷はどうあって欲しい?
自然にあふれていて欲しいですよね。これだけ街に対して緑が多いところって、世界中見渡しても珍しいじゃないですか? これがどんどん原生林みたいに育っていってくれたら最高ですよね。だから、渋谷の街で自然とともにあろうっていう生き方を今回の絵に込めたんです。僕たちからの希望でしかないですけどね。
(プロフィール)
THE BLUE LOVE(sense + KAZ)
sense 坂巻善徳と、KAZ 奥田和久によるユニット。自然とテクノロジーの融合・共生する平和な世界をアートで表現する。リサーチに基づき、その場所らしさを大切にしながら未来の都市を描く。単なる壁画ではなく、アーティストとしての立ち位置、SDGs等を踏まえ、アーティストとしていかに社会貢献するかということを大切にしている。